幸せそうな顔をみせて【完】
改札を抜けて少しホッとして、今度はホームへの階段に向かう。私の乗る予定の電車は後少しでホームに入ってくる。急がないといけないのに足が縺れそうになる。必死に向かう階段の途中で私は足を止めてしまった。階段の上には副島新が居てホームへ続く階段の上から鋭い視線を私に向けていた。
同じ駅を使っているし、マンションの距離も歩いて10分ほど。会社も同じだし、席も隣の私と副島新が遭遇するのはよくあること。だから、ここに副島新がいても可笑しくない。でも、今日はこんな場所で会いたくなかった。出来れば会社の営業室で会う方がマシだった。
絡む視線の先に副島新の瞳の奥が揺れる。
「おはよう。一緒に会社に行こう」
「珍しいわね。いつも一本後でしょ」
自分で平静を装いながら副島新と言葉を交わす。不自然さがないように同僚としてのラインは守れている。付き合う前の私と副島新はいつもこんな感じだった。
「今日は朝から葵に会いたかった」
「なんで?」
「今日は大事なアポが入っているから、その前に葵の顔を見て元気を貰いたかった。葵に会えてよかった。でも、お前、何か今日はおかしい。具合悪いのか」
その言葉に嘘があるようには見えない。でも…。単純に喜ぶことが出来るほど私には心の余裕がない。感情を必死に押し殺すことで小さく声を出すことが出来た。掠れてはいるけど、そんなことは何とも思わないだろう。
「私も大事な仕事があるの。だから、ちょっと緊張してるだけ」
同じ駅を使っているし、マンションの距離も歩いて10分ほど。会社も同じだし、席も隣の私と副島新が遭遇するのはよくあること。だから、ここに副島新がいても可笑しくない。でも、今日はこんな場所で会いたくなかった。出来れば会社の営業室で会う方がマシだった。
絡む視線の先に副島新の瞳の奥が揺れる。
「おはよう。一緒に会社に行こう」
「珍しいわね。いつも一本後でしょ」
自分で平静を装いながら副島新と言葉を交わす。不自然さがないように同僚としてのラインは守れている。付き合う前の私と副島新はいつもこんな感じだった。
「今日は朝から葵に会いたかった」
「なんで?」
「今日は大事なアポが入っているから、その前に葵の顔を見て元気を貰いたかった。葵に会えてよかった。でも、お前、何か今日はおかしい。具合悪いのか」
その言葉に嘘があるようには見えない。でも…。単純に喜ぶことが出来るほど私には心の余裕がない。感情を必死に押し殺すことで小さく声を出すことが出来た。掠れてはいるけど、そんなことは何とも思わないだろう。
「私も大事な仕事があるの。だから、ちょっと緊張してるだけ」