幸せそうな顔をみせて【完】
 私の気持ちは今もまだ副島新に向かっている。でも、私の気持ちに寄り添うように尚之は私のことを思ってくれている。そんな優しさに流されると楽になれるだろう。恋というのはなんと不器用で苦しいのだろうかと思った。でも、その苦しみだけ本気で私が副島新のことを好きだという証でもある。


 私は目の前にある袋の中からゼリーを取り出すと蓋をゆっくりと開ける。おかゆとか雑炊とか今は食べられないけど、それでもこのゼリーなら食べられそうな気がする。スプーンで掬い、口に運ぶと甘さが口の中に広がる。甘い優しさは…私の涙を止めてくれた。


 シャワーを浴びて目を冷やしてから寝たらきっと腫れることはないだろう。


「あ、美味し」


 私の口の端は少しだけ上がっていた。


 シャワーを浴びて、ベッドに入って…。目を閉じる。そして、起きたら…まだ普段よりは早い時間ではあったけど、それでも、昨日よりもよく眠れたし、鏡を見つめる私の顔は浮かない表情を浮かべているけど、それでも目は腫れてなかった。


 腫れてなかったことにホッとした私は念入りに化粧をして、マンションの自分の部屋を出る。今日も少し濃いめの化粧をして青白い肌を隠す。チークも口紅も強めの色を選ぶ。


 化粧で武装した私は駅までの道を歩きながらふと空を見上げた。


 昨日、一晩考えたこと。


 それは…。別れるなんて出来ないから、この思いを胸の内に沈めること。傍に居たいと思う気持ちを誤魔化すことは出来なかった。
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