幸せそうな顔をみせて【完】
 でも、同期として一緒に過ごした時間が長い分、恋愛としての距離感が掴めないのかもしれない。私はずっと好きだったから、一緒に仕事を頑張りながらも、ずっと見つめてきた。


 そっと、副島新の顔を見てみると、少し無造作にかき上げた髪がいつもの雰囲気とは違う。スーツ以外の姿を見たのも初めてだから、違和感を覚えるのに、黒のTシャツにグレーのスウェットという寛いだ姿をするとは思わなかった。


 考えてみれば自分の部屋でずっとスーツを着ている人なんか居ない。でも、私は仕事以外の彼を知らない。だから新鮮に感じる。よく知っているはずなのにどこか違う人といるような錯覚さえ覚えた。


 でも、新たな一面もまた好きだと思った。でも、我が儘を言えば、私の事をちょっとだけ見て欲しい。



 少し広めのリビングにはテレビの音が響いていた。テレビでは何かの映画が放映されていて…それを真剣に見ているようにみえる。声を掛けにくい雰囲気でその場に立ったままでいる私はたった少しの時間なのに随分長い時間が過ぎたような気がしてならなかった。その時間、私の頭の中は…目の前にいる『副島新』のことでいっぱいだった。


 私は少し離れた場所にペタンと座るとフローリングの床の冷たさを素足に感じた。この部屋に来た時は少し暑いと思ったけど、私がバスルームで着替えている間に冷房で部屋を冷やしてくれたのだろう。


 副島新から借りた服は私の身体には大きいから、その緩さも心地よいし、その服との隙間に涼しげな空気が通るのも悪くない。このままゴロゴロと寝ころびたいような気もする。


< 23 / 323 >

この作品をシェア

pagetop