幸せそうな顔をみせて【完】
 ここは自分の部屋ではない。そんなことするわけにもいかないから、私は静かにその場に座っていることにした。副島新は私を傍に寄せないような雰囲気を醸し出していて、距離にして1.7メートルくらいが縮まらない。傍に行きたいと思う気持ちとどうしていいか分からない気持ちが交差していた。



「葵は何を飲む?」


 私との間に流れる静寂の糸を切ったのは副島新だった。


 テレビを見ているかと思ったけど、急に私にそんなことを言う。テーブルの上にはもう一本ビールが置いてある。それは私の為に用意されたものなのか?それとも自分が飲むために用意したものなのか?


「ジュース以外ならある」

「え?」


 いくら私でもこの部屋からジュースが出てくるとは思ってない。副島新の部屋はワンルームではなく広々としているから、シックな色合いで整えられた部屋は男の人が暮らす空間だと嫌でも感じさせる。そんな部屋からジュースとかが出てくる方が可笑しい。

 
 副島新は辛いものが苦手だけど、だからと言って甘いものが好きと言うわけではない。



「コーヒー。紅茶。ビールにワイン。日本酒に焼酎。ウイスキー。バーボン。ブランデー」


「お酒はもういいかな」


 元々、私はそんなにお酒を飲む方じゃない。今日は楽しい同期との飲み会だったから、いつも以上に飲み過ぎているのに、副島新の告白というかプロポーズというか…。それで一気にお酒が回ったのか、顔がすぐに熱くなる。だから、その火照りも抑えたかった。


「なら何にする?」

「水」
< 24 / 323 >

この作品をシェア

pagetop