幸せそうな顔をみせて【完】
「はい」


 小林主任の言葉はドキッとするくらいに強気で、本当に大丈夫なのかと不安になる。でも、小林主任はそれで成績を上げてきているという実績もある。自分の会社の商品に全面的に信頼し、そして、その商品を熟知しているからこそ安売りはしない。


 安売りするくらいなら契約は見送るという徹底ぶり。


 私もいい商品だと思う。でも、小林主任のような強気な書類は作れないでいる。それを甘さと言うべきなのかもしれない。でも、私なりに頑張ってはいる。


「おはようございます」


 瀬能商事の持っていく書類を書き直していた私はその声にドキッとする。副島新は自分の席に座ると、私の方を見てニッコリと笑う。その微笑みにドキドキしながらもキュッと胸が痛くなる。不意に志摩子さんという女の人の影が過った。でも、それを気付かれないように私も笑う。



「まだ顔色悪いな」


「そう?大丈夫よ」


「今日は瀬能商事だったよな。小林主任と一緒に行くんだろ。大学の友達からの話だって?」


 尚之のことを詳しく話すつもりはなかった。隠すつもりもないけど、詳しく話すつもりもない。尚之とのことは既に終わってしまった過去だから。


「たまたま連絡が来て。ウチの新商品の説明を聞きたいって。私にとっては荷が重いから小林主任に頼んだの」


「そっか。じゃ、頑張れ。葵は真面目だし、小林主任がいたら安心だな」


「うん。心強い。頑張ってくる」


「ああ」

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