幸せそうな顔をみせて【完】
「すみません。〇〇会社の小林と瀬戸と申します。専務の瀬能さんに約束があるのですが」


「お待ちください」


 受付の女性は一瞬動きを止めたけど、自分の仕事を思い出したらしくどこかに電話をする。一瞬動きを止めたのは小林主任に見惚れたからかもしれない。免疫がない人なら見惚れるほどの端正な顔に浮かぶ微笑みは魅力的だと客観的に見て思う。


「三階の応接室でお待ちしているそうです。ご案内します」


「よろしくお願いします」


 受付のうちの一人の女性が受付席から出てくると、小林主任と私の方に向かって優雅に手を指し示す。その先にはエレベーターがあって、その先には尚之がいる。大学でいつも一緒に机を並べていた尚之とこんな風に仕事を介して会うことになるとは思わなかった。


 それも残念なことに対等ではない。


 緊張が身体を駆け巡り、嫌な汗が背中を流れる。唇が渇いてきて、どうしようもないくらいに喉が渇く。逃げ出したくなる私の横で小林主任は穏やかに微笑む。これから商談するとは思えない雰囲気に一瞬私の視線が小林主任の顔で止まってしまう。


 凝視してしまう私に気付いたのか小林主任はニッコリと微笑み、誰にも聞こえないように私だけに聞こえるように『大丈夫』とだけ囁いた。何が大丈夫なのか分からないけど、小林主任の落ち着きぶりを見ていると、緊張して焦っているのは私だけに感じた。


「こちらでございます」


 ノックされて開けられた応接室はとても広かった。
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