幸せそうな顔をみせて【完】
 開けられたドアの向こうに広がる空間はこんな場合でなければ凄く寛げるのではないかという雰囲気だった。床に敷き詰められた絨毯は一歩歩く毎に私のパンプスのヒールに絡むし、壁際は前面のガラス張り。そんな広がる空間に革張りのソファが置いてあって、そこに尚之は座っている。


 小林主任と私が入ってくると尚之はゆっくりと立ち上がり、微笑んだ。悠然と振る舞うその姿に私の知る尚之の姿はなかった。でも、なんだろ。ホッとする。私の知っている尚之が居ないことでホッとするなんて思いもしなかった。


 瀬能商事 専務 瀬能尚之。


 それが今の私の目の前にいる人。


「今日はお時間と取って頂きありがとうございます。私は瀬戸の上司の小林と申します。今日は我が社の新商品についての説明にお伺いしました。担当は瀬戸がしますが、今日はご挨拶に私も同行させていただきました」


「こちらこそお時間を取って頂きありがとうございます。早速ですが、説明を頂いてよろしいでしょうか?」


「はい」


 黒の革張りのソファに座るように促されて始まった商品説明は小林主任がしてくれると思っていたらそうではなかった。小林主任は持ってきた商品の資料をテーブルに広げ、尚之に見やすいようにすると、私の方を見てニッコリと笑った。


「では瀬戸が説明します」


 私は小林主任の説明の補助のために来ているつもりだったのに、小林主任はそうではなかった。いきなりの展開にまた緊張が高まる。
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