幸せそうな顔をみせて【完】
 そこで尚之は少し視線を落とし、そして、私の方をしっかりと見つめた。


「でも、契約は見送ります。話を聞いていると即答は出来ないというのは私の判断です。もう少し実績が欲しいです」


 新商品で実績は殆どない。瀬能商事は規模が大きいから危ない橋は渡れないということなのだろうか?複雑な会社のことは分からない。実績というのはどこまでの規模を言うのだろうか?私の心に重たいものが落ちてくる。こんな風に切り落とされた場合はどうしたらいいのだろう。


 では実績を積んでからまた来ますなんて…。


「瀬能さんの言われるのも分かります。でも、我が社の商品は他に追随を寄せ付けないだけの実力を持った商品です。瀬能さん。どうでしょう。一か月だけこの商品を使われないですか?一度使ってみて気に入らなかったらこの商品を使って貰うことは諦めます」


 一般の社員では出来ない力技だった。


 新商品を一か月だけ試用させる。確かにいいものとして実感させることは出来る。でも、その後の契約が大きくないとこの力技は使えない。主任に渡されている権限はどのくらいの物なのだろうか?普通の主任クラスの権限ではないのは明らかだった。



「それではそちらに利点がないのでは?私どもはタダで新商品を試すことが出来るということですよね」


 瀬能商事が一か月使ってみて、気に入らなかったら我が社の損失になる。それなのに、なんで小林主任はそんな力技を使うのだろうか?

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