幸せそうな顔をみせて【完】
「私どもにも利点はあります。商品に私どもは自信があります。ですので、きっと一度使うと手放せなくなりますから」


「そうですか?」


「はい。私の会社の商品はいいものだと自負しています」


 自信満々な小林主任の顔を見ながら、私は資料をもう一度手に取る尚之を見つめた。でも、尚之が私を見ることはなく、今は瀬能商事の専務としての表情を見せる。まさに、触発という雰囲気に私は飲まれそうになる。すると尚之はフッと顔を緩め、私の知っている尚之の表情を浮かべた。


 そして、さっきまで全く私を見てなかったのに、私の方を見てくる。スッと肩を竦め、ニッコリと笑い、小林主任を見つめる。


「気に入らない時は遠慮なく切ります」


「もちろん。それで、結構です」


「ではとりあえず一か月だけそちらの商品を入れさせて貰います」


 これは契約の一歩なのだろうか?


 そんな思いで小林主任を見つめると小林主任は私に向かい優しく頷いた。そして、バッグの中から用意していたと思われる書類を取り出した。それには『一か月の試用期間』の契約内容が書いてある。一度、会社に持ち帰り、その後に契約書を持って行かないと思っていた。


 でも、小林主任から手渡されて書類を見て、尚之はやられたという表情を浮かべた。


「用意していたのですか?」


「もちろんです。瀬能さんなら、きっと我が社の商品を気に入る自信がありました。もちろん『一か月の試用期間契約書』ではなく『本契約書』もありますが、どうされますか?」
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