幸せそうな顔をみせて【完】
 言葉にすることも頷くことも出来なくて、私は副島新のことを見つめるしか出来なかった。会社で泣くなんてことは私のプライドが許せなくて、目蓋の縁で止めることが出来た。


 今は絶対に泣きたくない。


 副島新は少しだけ安堵の表情を浮かべ、私の方を優しく見つめる。そんな優しい微笑みが自分だけに注いでくれたらと思う。でも、それは私の思いであって、副島新の思いとは違う。


「葵のこの頃の様子の可笑しさが気になっていた。俺も聞きたいことはあるけど、その前に志摩子さんのことを紹介する」


 志摩子さんを紹介?

 何を考えているのだろう。本命の彼女に浮気相手として私を紹介するつもり?そんなの絶対に嫌。無理。耐えられない。


「紹介して欲しいなんて言ってない。私には関係ないもの」


「葵。お前は勘違いしてるよ。志摩子さんは俺の母親だよ」


「嘘」


「本当。そろそろ昼休みが終わるから、詳しくは仕事が終わってから話す。仕事が終わったら、駅前のカフェに来いよ」


 副島新はそういうと私の頭をポンポンと撫でると資料室を出て行ったのだった。私はというと、余りの衝撃に言葉を失い、自分が何をしにきたのかを思いだすのに時間が掛かった。


 私がここに来たのは瀬能商事のための資料を用意しにきていた。月曜日のために納品準備もしないといけない。やることはいっぱいあるのに、頭の中はさっきの副島新の言葉でいっぱいだった。
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