幸せそうな顔をみせて【完】
 会社を出た私に降り注ぐのは何時にも増して眩い光。もう夏がそこまで来ているのだと思う。梅雨明けのしっとりとした季節はたった少しの時間に変わっていく。駅前のカフェまではさほどの距離もないのにただ歩いているだけでしっとりとしてきて、額に微かに汗を感じ始めた時にカフェに着いたのだった。もう少し距離があれば、きっと汗は額から流れていただろう。


『もう、夏ね』


 そんな言葉を胸の中で零しながらカフェに入った。


 カフェの自動扉を潜ると、さっきまでの暑さが嘘のように冷房が効いていて、スーッと一気に汗を引かせた。私はカフェラテを頼むと店内を見回してみたけど副島新の姿はなかった。姿がなくて少しだけホッとしてしまう。ホッとしてしまうのは…私の中で席に座り、今日はいつもよりも多めにミルク入れたラテは食事があまり喉を通らない私にはとっても優しい。胃に負担を掛けるから、デカフェにもしたし、氷も抜いて貰った。


 それでも久しぶりのコーヒーは胃に浸み、自分の胃に何も入ってないのを感じさせた。六時を少し過ぎたくらいの時だった。カフェの自動扉が開いて、入ってきたのは副島新で、そして、その後ろには…いるだけで人目を引きつける志摩子さんの姿があった。副島新は紹介もしてくれると言ったし、詳しく話すとも言ってくれた。


 でも、このタイミングで一緒に現れるとは思わなかった。どう見ても母親…親子には見えない。雑誌の撮影があるのではないかと思うくらいに二人はお似合いだった。
< 249 / 323 >

この作品をシェア

pagetop