幸せそうな顔をみせて【完】
「今日はね。仕事場に新くんが珍しく来てくれて、お茶に誘ってくれたの。いつもは殆ど相手してくれないのに、この頃、とっても優しいのよ。でね、紹介したい人がいるからって。新くんの紹介したい人って葵ちゃんのことだと思って仕事を抜け出してきちゃった」


 志摩子さんが私のことを知っているとは思いもしなかった。副島新じゃ自分の家族のことでさえも言わなかったのに、私のことを母親である志摩子さんに言うとは思えなかった。でも、志摩子さんは私のことを知っているようだった。


「あの、私のこと知っていたのですか?」


「もちろんよ。だって、あんまり人に興味を持たないクールな新くんが同期の女の子の名前を言ったのよ。それだけで特別な子と思うでしょ。それに先日もいきなり連絡してきたもの。普段は一年に一、二回しか連絡しないのに、いきなりだからとっても楽しみだったの」


 同期の名前を言っただけって…それで特別な子???そんなことはないと思う。ただ単に口から洩れただけのような気がする。それでも、志摩子さんは少し興奮状態が収まらないような気がする。


「志摩子さん。そこまでにして。それと時間でしょ」


 暴走しそうになっている志摩子さんを止めたのは副島新だった。仕事を抜け出してきたと言っていたから、仕事に戻らないといけないのかもしれない。志摩子さんは自分の腕の時計を見るとフッと残念そうな顔をした。本当に時間が来ているのだろう。

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