幸せそうな顔をみせて【完】
「葵ちゃん。ごめんなさい。仕事に戻らないと怖い編集長に怒られてしまう。また、きっと近いうちに会いましょ。今度は副島先生も一緒にね」


 そういうと、急いで帰ると思いきや、残っていたアイスコーヒーを最後まで優雅に飲んでからゆっくりと立ち上がったのだった。


『じゃ、またね』


 そんな言葉を残して席を立った志摩子さんの後姿には一向に焦る姿はなくて、これからどこかに買い物にでも行くような雰囲気さえも醸し出しながらカフェを出て行ったのだった。そして、副島新は立ちあがると志摩子さんの座っていた場所に座ると私の顔をじっと見つめてきた。


「志摩子さんが俺の母親っていうのは納得してくれた?」


「うん。でも、いきなりだから驚いた」


「だよな。俺も実は自分の家族のことをあんまり話したことなくて、これ話すのは葵が初めてかも」


 そんな前置きと共に始まった副島新と志摩子さんの関係は想像していたのとは全く違っていた。


 副島新が志摩子さんに会ったのはまだ、彼が中学三年で、志摩子さんが大学一年の時のこと。お父さんは大学の助教授で志摩子さんはそのゼミの生徒。バイトということで副島新の家庭教師になったらしい。


 それって素敵な大学生のお姉さんに憧れるというパターン??でも、淡々と話している副島新の口調は少し苦虫を潰したようにさえ見えた。私の表情に感情を見たのか、フッと息を吐いた。


「あ、葵が想像しているようなことは全くないから。むしろ、女の怖さを教えられた気がする」
< 252 / 323 >

この作品をシェア

pagetop