幸せそうな顔をみせて【完】
 水曜日の夕方からほぼ何も食べてない。たった三日だけど、こんなにも食欲がなかったのは初めてで自分でもどうしていいのか分からない。でも、焼肉はどう考えても無理。焼肉屋で今の私が食べれるものって…。ほぼ無いに等しい。


 小ライスと…レタスとか言ったら焼肉屋に行った意味がない。大好きな焼肉もビールも今の私には無理。でも、なんでだろ、自分の気持ちが言葉にならない。その合間にもどんどん話は進んで行く。それを止める術はない?



「さ、行こう。予約してないから急がないと」


「うん」


「きっと、美味しいと思うから葵は気に入ると思うよ」


「うん」


「ビールも美味しいよ。今日は俺の奢りでいい」


「うん。ありがと。楽しみ」


 急に座っている私の手を引くとそのまま副島新は私の身体をキュっと一瞬だけ強く抱きしめて、また緩められる。そして、私を睨む。綺麗な顔で睨まれると何をどうしていいのかさえ分からない。前の私なら副島新に言い返していて、こんな風に自分の気持ちが揺れることはなかった。


「いい加減素直になれば?」


 そんな副島新の言葉にそっと視線を上げるとニッコリと笑っている副島新の姿がある。言葉は少しぶっきらぼうなのにとっても優しい。そんな優しさに誘われるように私はボソッと自分の気持ちを言葉にした。


「ごめん。焼肉は無理」


「やっと言った。それだけ痩せれば食ってないのは分かってるから嘘吐くな」

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