幸せそうな顔をみせて【完】
「オレンジジュースです」


 こんなしっとりとした大人の空間でオレンジジュースを飲んでいるというのをどう思うだろうか?普通ならオレンジ系のカクテルでも飲めばいいけど、身体がまだ本調子でないのでアルコールは厳しかった。


「マスターのオレンジジュースは美味しいでしょ」


 緑川さんはそんなことを言いながら、一杯目のジントニックのグラスを空にした。するとまた、同じジントニックを頼んだのだった。そんなに美味しいカクテルなら他のものも美味しいだろうと思うけど、緑川さんはそれを飲み干していく。


「今日は酔いたい気分なの」


 そんな言葉で始まった緑川さんは次々にグラスを開けていき、次第に綺麗な顔を潤ませていく。仕事の話なんかは全くしないで、マスターを巻き込んでの世間話をしながらの時間だった。


「清香。その辺で終わりにした方がいい」


 そう言って緑川さんの目の前に置かれたのは何杯目かのジントニックを口につけた緑川さんはマスターを睨みつける。名刺に書かれた名前は『緑川清香さん』だった。でも、マスターは名前で呼ぶほど緑川さんと親しいのだろう。


「ジントニックにジン抜きなんてありえないわ。ライム味の水になるじゃない」


 ジントニックからジンを抜くと確かにライム味の水にしかならない。でも、横に座っている緑川さんは完全に酔っていた。清楚な女性に酔いを足すとこんなにも危うい魅力をまき散らすのだろうか?綺麗な容姿と凛とした姿は女として憧れるもの。それに、酔いが混じれば…。


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