幸せそうな顔をみせて【完】
「それ以上飲むと後が大変だぞ。今日はまだ月曜日、明日も仕事だろ」


 確かにそう。今日はまだ月曜日。マスターの言うとおりだった。今の状態で止めとくとほろ酔いくらいでいいと思う。でも、これを過ぎると、きっと苦しくなる。


「いいの。今日は特別」


「何かあったのですか?」


 つい聞いてしまった。世間話ではないプライベートに踏み込むようでどうしようかと思ったけどつい聞いてしまった。一瞬、驚いたような顔を緑川さんはしたけど、すぐに綺麗な顔を緩めた。


「あ、私の親友に二人目の子どもが生まれたの。ずっと苦労していたから幸せになれたのが嬉しいの。こっちが心配してしまうくらいに真っ直ぐででも、真っ直ぐすぎるから放っておけなくて。そんな彼女が自分の力で幸せを掴んだの。だから嬉しくて」


 自分の親友が苦労していて幸せを掴んだら本当に嬉しいのだろう。凛とした緑川さんの知らない部分を今日はみることが出来た。仕事の場で会った時は隙がなく、交渉の主導権さえも握られる。そんな才女である緑川さんの一面は凛とした姿よりも素敵だと思った。


「おめでとうございます」


「うん。本当におめでたいわ。あの子は自分に正直だから、後悔しないのよ。自分の人生だもの。後悔しないのが一番だわ」


 そういうと目の前に置かれたライム水を口に含みながら、綺麗な顔で笑ったのだった。


「これも悪くないかも」


「そうだろ。さ、そろそろタクシーを呼ぶぞ。清香に営業妨害されては困るから」


 そう言ってマスターはニッコリと笑ったのだった。
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