幸せそうな顔をみせて【完】
『今から新の部屋に行っていい?』


 明日でもなくどうしても今日会いたかった。自分から誘いを断っておきながら勝手だと思うけど、それでも今は副島新に会いたいという我が儘な心が私を侵食している。聞き分けがいいと思っていた私はどこに行ってしまったのだろう。後悔はしたくなかった。


『いいよ。今から迎えに行こうか?シャワー浴びてたから少し掛かるけど』


『ううん。自分で行けるから待ってて』


『ああ。今日は鍵を持ってる?持ってるならそれで入ってきて』


『うん』


 私は駅前からタクシーに乗るとそのまま真っ直ぐに副島新のマンションに向かう。私のマンションの前を通り過ぎるとすぐに副島新のマンションが見えてきた。そこで降りると私は大きく深呼吸してからマンションの中に入ったのだった。


 私のキーケースには副島新の部屋の鍵があって、それをエントランスの鍵の差し込み口に入れるとオートロックが解除され中に入ることが出来た。この鍵を使うのは初めてでドキドキする。エレベーターを使って副島新の部屋の前まで行くと深呼吸をしてから鍵穴に鍵を差し込むと自分の手で副島新の部屋のドアを開けたのだった。


「おかえり。葵」


 緊張した私の目の前にいるのはシャワーを浴びたまま濡れた髪をタオルで拭きながら上半身裸のままでスウェットだけを履いた状態の副島新だった。急いで上がってきたのか、まだ髪にも肌にも雫が零れ落ちている。


「早かったな。もう少し掛かるかと思っていた」


「タクシーで来たから」


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