幸せそうな顔をみせて【完】
 恋も仕事も欲しいと思う私は我が儘。でも、我が儘になってしまうほど私は副島新を好きだった。もし、今、仕事を辞めてついて行くなんて絶対に後悔する。今日、あの店で緑川さんに会ったのは運命のいたずらのような気がする。


 彼女が何気なく言った『後悔しないのが一番』という言葉が私の胸に突き刺さった。そして、私は今、自分の気持ちに素直になり、決断をしないといけない時が迫っている。この決断をするのにかなりの時間が掛かった。それにこれが上手く行くという保証もない。


 こういうことはもう少し段取りとか必要かもしれないけど、勢いというのも必要だと思う。そして、今の私は勢いだけで動いている。副島新を好きだという気持ちだけで身体も心も動く。


 私は自分の右手に嵌っていた副島新から貰ったピンクサファイヤの指輪を外すと副島新の手を掴み、それを握らせた。すると、副島新は顔を歪め、悲しそうな顔をした。端正な顔に無造作にシャワーを浴びたばかりで髪はまだ濡れている。


「これはいらないってこと?」


「違うわ。それを私の左手に嵌めて。新。私と結婚して。私は遠距離恋愛は出来ないけど、結婚して単身赴任なら誰でも出来るでしょ」


 これが私の出した答えだった。


 恋も仕事も失いたくない。そんな私の我が儘は副島新を縛ること。結婚というのに拘る必要はないかもしれない。でも、今は私は結婚で副島新を縛る。


 副島新はピンクサファイヤの指輪を握りしめるとフッと顔を緩めた。そして、ボソッと呟いたのだった。


「マジで葵には敵わない」
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