幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新はそんな風に少し意地悪な言葉を紡ぎながらも私の身体をキュッと抱き寄せた。そして、少し腕の力を緩めると私の唇に自分の唇を押し当てた。そして、角度を変え、何度も重ねるうちに息が上がっていく。胸の鼓動はいつにも増して激しく打ち鳴らしている。


 このまま、抱かれたいと思った。今までの全てを洗い流すかのように抱きしめて欲しかった。そんな思いで副島新の首に腕を絡めると、そっと耳元に副島新の声が響いた。


「これから忙しくなるな」


 その通りだと思った。


 まずは来月の本社営業一課に転勤のために住むところを探しに行ったり、転勤の準備をしたりしないといけない。副島新一人の引っ越しはそんなにたくさんのものがあるわけでもないから普通の引っ越しよりも楽だと思う。でも、来月に赴任となるとそんなに余裕はない。


「そうね。引っ越しとかもあるしね」


「何言ってんだ。そんなのはどうでもいいけど、まずは今週末に葵の実家に行って挨拶だろ。そして、来週は俺の実家。まずは明日、小林主任に結婚するからと言っておかないとな」


 まさか副島新の口から私の実家への挨拶とか考えもしなかった。副島新の言葉を聞きながら、私は漠然と結婚というのを思い描いていただけだけど、副島新はもっと明確な結婚へのイメージを持っているみたいだった。


「何でそんなに急ぐの?結婚は新が本社で落ち着いてからでもいいでしょ。それに転勤って来月でしょ」


「俺は葵を自由なままでここに置いておくつもりはないから」
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