幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新は大きなカバンをそのままテーブルに来ると空いている席に座る。すると、私の前に置いてあったビールの入ったジョッキを持つと、そのままそれに口を付けたのだった。余程喉が渇いていたのだろうか?一気に飲み干してしまった。


「お疲れ。今、帰ってきた。で、何の話をしてた?それと俺のビールと葵のビール」


 そんな言葉に一番端にいた未知が歩いている店員を掴まえて二杯のビールを頼んでいる。その横で香哉子がさっきと同じ質問を副島新たにぶつけたのだった。


「副島センセイと葵の結婚について」


「あ、それ。来月、俺が本社営業一課に転勤になるから、その前に結婚しておくだけだよ」


 あまりにもあっさり言うから呆気に取られたのは、私を含むその場の全ての人だった。私以外は結婚と同様に本社営業一課に転勤というのも驚きにしかならない。叫ぶどころか一気にその場の音を消してしまった。


 副島新は私が逆プロポーズをしたことは言わなかったけど、ずっと一緒に居たし、好きだったから自然の流れだという。そこまで隠しもせずに言われると、私の時はあんなに盛り上がっていたのに、次第に勢いは削がれていて、最後にはいつもの飲み会と一緒になっていた。


「副島センセイ。葵のどこが好きになったの?」


 酔いが回ってきた香哉子は皆が聞くのを躊躇していた言葉を口にした。でも、副島新は何も臆することなくサラッと言ったのだった。


「一緒にいて楽なとこ」
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