幸せそうな顔をみせて【完】
「そんなに美味しいか?」


「うん。今まで食べた中でもかなり美味しいと思う。正直、さっきの舌平目の味が濃厚だったから、この後に、重たいチョコレートケーキは厳しいかと思ったけど、全然そんなことない。いくつでも食べられそうなくらいよ」


 小さなケーキなのですぐに私の口の中に消えていくし、傍のバニラアイスクリームも少し溶けかかっている。解け始めの瀬戸際が好きだから、今が絶好のチャンスとばかりに口に入れると、あっさりとしたバニラアイスクリームの味が口内に広がっていく。とっても美味しくて顔が緩みっぱなし。でも、締りのない顔は元に戻る気配はない。


「そんなに好きなら俺のも食べろよ。俺はコーヒーだけで十分」


 そう言うと副島新は私の方に自分の前に置かれたデザートのプレートを差し出す。こんなに美味しいから自分で食べればいいのにと思うけど、私の方に差し出したまま手を付けようとはしない。


「美味しいから自分で食べたらいいのに」


「甘いのはそんなに好きじゃない」


 そう言われると何も言えなくなって、それに、副島新のデザートプレートのアイスクリームが徐々に溶け出している。限界ギリギリの状態は間違いない。


「じゃ、貰う。でも、恨まないで」


「そんなので恨むか。ほら、さっさと食べないとアイスクリームが解けるぞ」


 副島新の言うとおりにプレートの上のアイスクリームが溶け出していたのだった。
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