幸せそうな顔をみせて【完】
「それ欲しいのか?」


 ふと、手に持って考え事をしていた私の耳元に副島新の声が響いた。そんな声にドキッとしながらも持っていた置物を棚に戻す。


「可愛いと思ったけど、これって置く場所が必要でしょ。それにただ置くだけでは使い道がないの」


 私が可愛いと言ったのは小さなガラスの置物で、上部には切り込みも入っているから、メモスタンド。でも、私が惹かれたのは実用性ではなくインテリア性。ガラスの置物は淡いブルーのガラス製で、中にいくつかの空気の球が残されていて、これが人の手に寄って作られたのが分かる。


 海の青を模したような色がとっても好きだと思った。


 でも、一人暮らしの私がメモスタンドとして使うこともなく、他の使い方としては写真を飾るくらいにしかない。私は自分の性格からして部屋に写真を飾ったりはしない。だから、フォトスタンドとして使うこともないだろうと思うと、使い道が全くないことになる。だから、使わないものを買う必要はない。そんなのは分かっているのに、それでも私はガラスのメモスタンドのぽってりとしたフォルムに目を奪われていた。



「そんなに気になるなら買えばいいのに」


「欲しいからと言って全部買うと大変なことになる。私の部屋は副島新の部屋みたいに広くないから」



「じゃ、俺の部屋に置けばいい。これから来ること増えるだろ」

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