幸せそうな顔をみせて【完】
 低く掠れた声には私を心配していたと思われる色を宿している。私がシャワーを浴びている間中、もしかしたらずっと心配をしていたのかもしれない。どんな時間を過ごしていたのかと思うと何時もなら軽口を叩いて躱す私が副島新の声に何も言えずにただ、一言呟いた。


「ごめん」


「ああ。大丈夫ならいいから。でも、髪を乾かそう」


 副島新は少し腕の力を緩めると、私の肩に掛かっているタオルを手にすると私の髪に優しくタオルを当てる。そんな姿を見ながら急に愛しさが私を包んだ。好きという気持ちだけでは足りないくらいの思いが溢れ、私は副島新の身体に抱きついた。


「そんなに引っ付いたら髪が拭けない」

「うん」


 うんと言いながら私はもっと腕の力を込める。細いのに堅い副島新の胸に頬を寄せると、トクトクと規則正しく、それでいて少し速めの音が聞こえる。自分の身体の中から聞こえる激しい鼓動と絡み、音楽を奏でているように思えた。



「葵」


 時間は真夜中の四時少し前。


 濡れた髪は静かに私の肩に零れる。そして、借りていたシャツの肩を少しずつ色を変えていく。私は緩められた腕がとっても嫌だった。副島新の心配に歪んだ切なさに満ちた横顔と、抱きついた先に頭の上から聞こえる安堵するかのような吐息を聞きながら…。



 誰よりも深い思いを抱く新の腕に抱かれた気がした。



「俺を心配させるな」


「うん。ごめん」




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