ご懐妊は突然に【番外編】
「…遥?」

名前を呼ばれて羽交い締めされた状態で振り返る。

そこには何故かエプロン姿の匠さんが呆気に取られた顔で立っていた。

「匠さん!酷いじゃないのよ!私を借金のカタに売り飛ばすなんてあんまりだわ!」

匠さんは眉根を寄せて、頭に「?」マークが浮かんでいる。

「…あのー、新庄さん、その女性は僕の妻です」

「へ?」

新庄、と呼ばれたマッチョはギョッとした表情を浮かべた。

「パニックになっているようなので、離していただけますか?」

「は?」

私と新庄はキョトンとした表情を浮かべ顔を見合わせた。


「どうぞ」

コーヒーが入ったカップが目の前に置かれる。

白を基調としたオシャレで開放的なキッチンスタジオの一角で、カラフルな黄色い椅子座り私は項垂れる。

ここは『Sweet angels』の部屋の向かいにある『Reiko's cooking studio』である。

「玲子さん、ありがとうございます」

匠さんはニコリと微笑んだ。

玲子と呼ばれる女性は小柄でフリフリの白いエプロンを着けている。

長くウェーブがかった茶色い髪を後ろで束ねて、少女のような可愛らしい顔立ちをしていた。

いかにもピンクハウスのラブリーな洋服が似合いそう。

「いいえ、葛城さんの奥様にお会い出来て嬉しいわ。こちらこそ龍生さんが脅かしちゃったみたいでごめんなさい」

玲子さんは申し訳なさそうに言ってぺこりと頭を下げた。

その脇でマッチョの新庄が身を縮こませている。

この2人は驚くべきことに夫婦である。
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