嫌いになりたい
さっきはそれどころじゃなかったから気付かなかったけど

彼の姿を改めて見てみれば


切れ長の二重に整った顔

左右に遊ばせた前髪に、襟足の長い髪の毛

胸元が開かれた濃青のYシャツに金のネックレス

ぴっちりとした高級そうな黒いスーツ

そして、さっきあたしを包んだ甘い香水の匂い


どうやってもホストにしか見えない


お詫びだなんて…

どうせ店に連れて行って、貢がせるんでしょ


今は仕事が楽しくて、恋愛だとか興味がない

『お姫様』扱いもされたいなんて思わない


「結構です」


だから、ハッキリと断った

すると


「待ってるから」


そう言ってあたしの唇に触れるだけのキスを落とし、また優しく微笑んで背を向けた


「あたし、来ないから!」


その背中に叫ぶ


「俺は来てくれると思ってるから、来るまでずっと待ってる。じゃあね、ラビちゃん」


クルッと振り向き、後ろ向きに歩きながらあたしに手を振った

背中に街のネオンを受けてキラキラ輝く『サク』という男

その綺麗さに顔を逸らすことが出来ず、人混みに紛れて見えなくなるまでジッとその姿を見送った
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