立花課長は今日も不機嫌

まだバニーちゃんのことだと決まったわけではない。

別件で呼び出された可能性だって否定できないのだから。


もしかしたら、私の気付かないところで何か仕事上のミスを犯したのかもしれない。

それはそれで嫌な呼び出しだけれど、今の私にはそっちの方がずっと気が楽だった。


それに立花さんだって、私が夕べの“杏奈”だと100%確証を掴んでいるとも思えない。

今、立花さんの目の前にいる佐伯杏奈と、プリマベーラでの佐伯杏奈は、まったくの別人に見えているはずだから。


それは、あの霧子さんも「同一人物には思えないわね」と太鼓判を押すくらい。

だから、安易に認める必要はないのだ。



「……いえ、分かりません」


努めて平静を保って答える。

すると、立花さんは整えられた右眉だけ器用に吊り上げて、切れ長の目を細めた。

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