立花課長は今日も不機嫌
置かれていた状況をすっかり忘れて見つめ合っていた私たちは、岩瀬さんの登場で一気にあるべき場所へと戻された。
ホテルの街灯が立ち並ぶ向こうから、岩瀬さんが小走りに近づく。
どうやら私たちを追いかけて来たようだった。
「あ、あのですね……ぼ、僕のことならお気遣いなさらないでください」
「……はい?」
少し走ったことで噴き出た汗を拭いながら、岩瀬さんがしきりにペコペコと頭を下げる。
「こ、今回のお約束は……その……なしにしましょう」
「いえっ、そういうわけには」
唐突な提案に驚いてしまった。
慌てて拒否する。
それじゃ岩瀬さんはタダ働き同然だ。
無理を言って、一緒に会社まで忍び込ませてしまったのに。