立花課長は今日も不機嫌
私と夜景を見ることが、その対価というにはあまりにも安すぎる気はするけれど。
「いいんです、杏奈さん」
「でも、」
「杏奈さんが危険な思いをして助けたのが、こ、こちらの方なんですよね……?」
恐る恐るという感じで立花さんを手で指し示す。
私は黙って頷いた。
「杏奈さんはきっと、えっと、その……見返りなんて求めてないですよね?」
「――見返りなんて、とんでもないっ」
大袈裟すぎるほどに両手を振って否定する。
私は純粋に立花さんの手助けをしたかっただけ。
その代わりに何かを求めようなんて、1ミクロンも思ってない。
すると、岩瀬さんは私の考えていることまで見透かすように、穏やかに笑った。