立花課長は今日も不機嫌

そこまでされて、呑気に続けていけるわけにもいかない。

つい先延ばしにしてきてしまったけれど、いよいよ本当に覚悟を決めないとならないか……。


「それじゃ、辞めちゃうのね……」


霧子さんが急に寂しそうに私を見つめるから、妙にしんみりとしてしまう。
自分のことなのに、どこか人ごとだったことが、急に現実味を帯びてきた。


「そうしないといけないみたいです。でも、なかなか言い出せなくて……」

「そう、残念ね……」


トボトボと控室を出て行く霧子さんに「お疲れ様でした」と声を掛けると、左手をヒラリとだけ上げてドアを閉めたのだった。


そして、重苦しい気分を引きづりつつ、私も帰ろうとお店の裏口のドアを開けたときのことだった。


「……岩瀬、さん?」


電柱の陰から出てきた人影にびっくりしながらも、それが岩瀬さんだと分かって、ちょっとホッとする。


「どうかしましたか?」

「あ、あの――っ!」


岩瀬さんが勢い余って、何もない地面に蹴躓く。

< 48 / 412 >

この作品をシェア

pagetop