立花課長は今日も不機嫌
後ろを振り返る余裕は全くもってない。
けれど、きっと茫然と立ち尽くしているであろう岩瀬さんの手前、立花さんはこの手を離せないに違いない。
それは、立花さんにしてみれば、欺くための一つの手段。
そう言い聞かせて、余計な方にブレそうになる気持ちを必死に立て直した。
それにしても……
立花さん、足が速すぎる!
ただでさえ長いストライドだというのに。
合せようと必死になる私は、自然と小走りになっていた。
それに気づいた立花さんが足を止めたのは、角を曲がって岩瀬さんから見えないだろうと思われる場所だった。
妙な感情はないにしろ、こっちが悲しくなるくらい、手があっさりと解かれる。
「あの……」