秘密の記憶は恋の契約
「じゃあ・・・おつかれさま。お先に・・・」

「ああ」

素っ気ない返事をする彼に、私はくるりと背中を向けると、そのままフロアを後にした。


(・・・綾部くんは上司だけど、この仕事は、私が責任者でもあるのにな・・・)


ミスがあったなら、私も一緒に直したい。

明後日に迫った納期を前に、少しでも早く完成させてしまいたいのに。


(綾部くん一人でやるほうが、はかどる感じだったのかな・・・)


だとしても、少しくらい任せてくれてもいいのにな。

なんだか信頼されていない気がして、私はちょっと悲しくなった。

「・・・」

それとも。

私と一緒に残業するのが、イヤになってしまったのだろうか。

彼の冷たい態度を思い出し、ネガティブな思考に拍車がかかる。

やっぱり嫌われてしまったんだ、という思いに囚われ、胸がぎゅっと苦しくなった。


(だから社内恋愛はイヤだって、ずっと思ってたのに・・・)


会社から駅までの道を歩きながら、私は何度もため息をつく。

チカチカと点滅する横断歩道を走って渡り終えたとき、カバンの中のスマホが震えた。
< 117 / 324 >

この作品をシェア

pagetop