秘密の記憶は恋の契約
(・・・綾部くん・・・もう仕事始めてる)


視界の先には、見慣れた隣の席の彼。

シャツの色柄は、昨日と同じものだと思った。

謝らなくちゃとか、残業のお礼を言わなくちゃとか、思っても伝えられる能力は、今の私にはないけれど。

それでもなにか伝えたくて、私は呼吸を整えた。

「お、おはよう・・・!」

とりあえず出た朝の挨拶。

思ったよりも大きめの、自分の声に驚いた。

「ああ・・・おはよ」

気だるげに返事した彼は、疲れた表情で私のことを横目で見上げる。

目の下にある黒い影。

やっぱり徹夜だったのだろうと、そんなことを考えた。

「あの、綾部くん」

「・・・なに?」

立ったまま話続ける私を、訝しそうに見つめる彼。

私は小さく深呼吸して、昨日のことを口にした。

「その・・・残業のこと。遅くまでかかってたって、今・・・金田さんに聞いたんだけど・・・」

私の問いかけに、彼はバツが悪そうに「ああ」と短く相槌を打つ。
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