秘密の記憶は恋の契約
「ふーん・・・。そうなの?そんな常識、オレは知らない」


(ええっ!?)


恥ずかしいとかないのかな・・・。

動じない綾部くんに困っていると、入社一年目の田口くんが、ぼーっとした様子でこちらに向かって歩いて来た。

そして、ちょうど見つけた私の前の空席に、「失礼します」と言って腰を下ろした。

けれど。

「あっ」

正面を向いて綾部くんの存在に気づいた彼は、そう言って立ち上がり、何気なさを装って、そそくさと席を移動してしまった。

「・・・ほらー・・・」

「なに?」

「田口くん、なんとなく気まずかったんだよ。

学生時代ならまだしも・・・目の前で職場の先輩がカップルで座ってたら、居心地悪いと思うけど」

「そう?田口は特別照れ屋なんだろ」

綾部くんは、全くもって動じない。


(・・・そうかなあ・・・)


田口くんだけじゃなく、うちの部の後輩は、こういう状況が不得手な男子が多い気がする。


(それに何より、私が恥ずかしいんだけど・・・)


とはいえ。

綾部くんが、この場を離れるような気配はなくて、仕方ないかと腹をくくった。

すると、そんなことは全く気にしないであろう二人組が、私たちの前によいしょと座る。

「なんだなんだー。こんな端っこに二人で並んで座っちゃってー」
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