黄昏と嘘

チサトは肩を揺らし、息を切らしたまま、LL教室に辿り着き、ドアを開ける。

昼休みもそろそろ終わる時間、部屋にはだれもおらずしんと静まりかえっていた。

昼休みのこの部屋は日差しが窓際の白いカーテンを照らし、余計に明るく感じる。
あの時は黄昏でここまで明るくなかったけれどそれでもここに来ると必ずチサトはあのことを思い出す。
まだ鮮明に彼女の中に残る、泣いていたアキラの姿。
きっとアキラは「大切」な「彼女」を思い浮かべていたのだろう。

当時はぼんやりと感じていたことだが、今はだんだんとその「彼女」の存在が会ったこともないというのに鮮明になってくる。
「彼女」を思うことは自分で自分の胸を締め付けることになるから、止めておこうといつも思っているのに、でも。

でも「彼女」はいつもこころの片隅にあり、チサトを苦しめる。
消したくても消えない。

普段は嘘で自分を隠し、黄昏のあの中で見た本当の彼の姿。
だから苦しいけど確かめたい、でも本当のこと、聞けずにいる。

違う・・・、聞いちゃいけないことなんだ。
あのときの先生の姿を思い浮かべると私も泣きそうになるから。
だから先生はもっと辛いはず。

誰もいないLL教室でぼんやりと立ち尽くしていたが、誰かチサトと同じように何かを借りようとやってきたようで、明るい学生たちの話し声が聞こえ、ドアの開く音がした。

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