黄昏と嘘
日曜日の夜、アキラがリビングから通じるベランダでタバコを吸っていた。
あ、先生、帰ってきてるんだ。
ちょうどチサトがいつもの図書館で時間をつぶし、ファミリーレストランで晩御飯を食べて帰ってきた時、誰もいないだろうと思っていたのにアキラがいたことに少し驚いた。
相変わらずアキラは休みの日がいつなのかわからないくらいに家を空けることが多かったが今日、こうしているということは論文のほうも落ち着いてきたのかもしれない。
そんな彼をチサトは少し離れたリビングのドアのところから遠目に見つめる。
先生は時々こうして遠くを見ていることがある。
ベランダの向こう。
たまにこうして彼を見かける時、必ずベランダでタバコを吸っていた。
チサトからは彼の背中しか見えない。
何を考えているのか、どんな表情をしているのか。
チサトはこういう時、声をかけることができない、いや、声をかけてはいけないように思っていた。
なんの根拠もないけれど声をかけたら二度と口を聞いてもらえないような気がしたからだ。
アキラが何を思い、どんな表情をしているのかわからないだけにきっとアキラは、チサトの知らないあの女性を見ているのだろう、そう思っていた。