黄昏と嘘
「余計なことだと言ってるんだ!」
なにか感情を抑えたようないつもよりも低い声。
今度ははっきりとチサトに聞えた。
そんなアキラの突然の声にびっくりして調理台の上にあったグラスを肘で突いてしまい、床に落としてしまう。
キッチンに響くガラスの割れる音。
「わっ!ごめんなさい!」
驚く声をあげると同時に慌てて謝り、早く片付けなければ、そう思ってしゃがんで割れたガラスの破片を集め始めようと手を伸ばす。
するとチサトの身体は突然、自由が奪われたように動けなくなった。
彼女は自分に何が起こったのか理解できず、その束縛から逃げるようにもがきながらまたガラスの破片に手を伸ばす。
「危ないじゃないかっ!」
「!!」
アキラの声がすごく近く、耳元で聞こえた。
そしてその時、やっとチサトはその状況を理解する。
彼女はアキラに後ろから抱き止められ腕を掴まれていたのだ。
アキラの体温が彼女に伝わる、彼から匂う、やさしい香り。
そして思っていた以上にたくましい腕の感触にチサトの頭の中は真っ白になった。
や・・・、だ。
どうしよう。
「あ・・・、あの、先生・・・」
やっとの思いでチサトはアキラに言葉を伝えるがそのあとの言葉が続かない。
そんなチサトの声にアキラはハッとして腕を離す。