黄昏と嘘
いったい、どうしてしまったのか。
アキラ自身、自分でやったことなのになぜ彼女を抱きとめていたのか、わからなかった。
ただ、危ない、とそう思った瞬間にはチサトに腕を伸ばしていた。
そして忘れかけていた感覚がかすかに脳裏をよぎり、彼女が声をかけるまで我を失ってしまったのだ。
温かく安堵できる感覚。
「す・・・まない・・・」
アキラは呆然としたまま、チサトに謝る。
いくら危ないからと言ってもこんなことをしては彼女は驚き、怯えるに決まっている。
しかしチサトには彼の謝る言葉が届かなかったのか何も答えることもせず、離された自由になった手で無意識に再び床のガラス片に手を伸ばす。
彼女はかなり動揺しており、顔は赤く、急に熱が出たように体中が熱くなっていた。
どうしても今の自分をアキラに見られたくない、見られたら想いに気付かれてしまうかもしれない、そんな思いでいっぱいだった。
アキラはそれでも必死にガラスの破片を集める彼女をぼんやりと見つめるだけだった。
「痛っ!」
チサトは顔をしかめて拾っていたガラス片を落とす。
かなり焦っていたせいで、そのガラス片で指を切ってしまい、小指から血が流れ出した。
その彼女の声にアキラは慌てて、彼女の怪我した手を取り、ポケットからハンカチを出してチサトの怪我した小指にそっと当てて止血する。