黄昏と嘘


「・・・もういいから、何か作るから。
向こうで座って待ってなさい」

項垂れるチサトに向かってアキラは思わずそう言った。
その言葉にチサトは顔をあげ大きく目を見開いてアキラを見つめた。


先生が、作ってくれるの・・・?


びっくりしたような表情でアキラをじっと見ているチサトにアキラはふっと我に返る。
言ってしまった以上、今更止めるとは言い辛い。
アキラはゆっくりとカウンターの向こう側のダイニングテーブルを指を差しチサトにそこで待っているように促す。
チサトはそんな彼の言葉が理解できずいつまでも驚いたような表情をする。


「・・・早く、座ってなさい」


 私のために?先生が?


彼に繰り返し言われ、チサトはやっとアキラの言葉を理解したのだが、何をどう答えていいのかわからず、ただ言われた通り、黙って素直にダイニングテーブルの席に着く。
そしてゆっくりと彼女がキッチンのほうに視線を向けるとアキラの姿が見えた。

彼は背広を脱ぎ、ネクタイをはずして食品庫の棚にかけ、ワイシャツの袖をまくる。
チサトはそんな彼を見つめ、恥ずかしくなるような、胸の奥がくすぐったくなるような感覚に陥る。

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