黄昏と嘘
チサトはゆっくりと出来事を思い出す。
傷をいたわってくれたこと、それから後ろから抱きとめられたこと。
今、思い出しても心臓が張り裂けそうなくらいにどきどきしてしまう。
それから・・・。
アキラと一緒に汚れたキッチンを片付けていた時に急に変わった彼の表情。
あれは・・・。
チサトは彼に対してよくないことを言った、といったのは理解していたけれど、それが何だったのか、今でもわからなかった。
「それより・・・」
「はい?」
チサトは彼の笑顔で。
アキラは彼女の人なつっこい態度の心地よさにー。
たぶん、このとき、お互い、緊張も、理性も、思いの壁も、なにもなくなってしまったのかもしれない。
「・・・晩御飯は外で食べないか?」
「はあ・・・」
チサトは条件反射でそう適当に返事したものの、言われた瞬間はアキラに言われた言葉を理解していなかった。
目を丸くして、ただアキラを見るだけだった。
外で。
食べないか。
「・・・外で食べないか・・・?外で・・・食・・・」
チサトはさっきのアキラの言葉を何度か繰り返し、そして3回めにしてやっとその言葉の意味を理解する。
先生が、私を、ご飯に、誘ってくれているの?
本当に?
と思うと同時に、天にも上りそうなくらいに嬉しくなった。