黄昏と嘘
「あーそう」
チサトの反応に諦めたのか、カノコはそっけない返事をするが、チサトはちょうど目に入った地下鉄への入り口の方へ視線を向け、気づかないフリして精一杯の笑顔で応える。
「またね!」
慌ててきびすを返し、チサトは地下鉄の階段を降りる。
いつも心配してくれるカノコには本当に悪い、と思っている。
だけどどうしてもチサトはアキラのことを諦めるなんてできなかった。
心配してくれる彼女のことを思うたび、胸の奥が痛むけれど、でももうそれはどうしようもないことなのだ。
アキラとのことでこれから先、傷つく覚悟ができている、と言ったら嘘になるかもしれない。
いや、すでに「大切な」、「彼女」という存在が実際にあって、それで十分に傷ついている、はずだ。
たぶん、はじめからついている傷だからチサト自身ではもうわからなくなっているのかもしれない。
えっと、19時に間に合うように急がないと。
そう思いながらチサトは地下鉄の改札を抜けて再び階段を降りる。
そしてちょうど階段の途中で大きな警笛とごおっという風の音が聞こえた。
あ、地下鉄来たかも!
階段を降りきったとき、ちょうど地下鉄がホームに入ってきた所で、チサトは慌てて開くドアに飛び乗る。
ドアが閉まり、下を向いて胸に手を当てて息を整えてを上げた時、地下鉄の窓に映る自分が目に入った。