黄昏と嘘
彼の心の中にまだ「彼女」が住み着いているのか。
もしそうだとしたら、その想いは何なのか。
もう何年も昔のことなのに、こうして時々彼の心の中に「彼女」が現れては消えていく。
そして現れる度に彼の心に傷を残していった。
しかし、突然、あの夏の終わりの日、彼の前にチサトが現れてからは・・・。
少しずつ彼にとって今までの「彼女」の存在がわからなくなっていった。
「先生・・・?」
そう、最近はアキラが迷っているとなぜかチサトの彼を呼ぶ声が聞える。
なぜか彼女が彼の近くにいてもいなくても聞える。
「・・・先生、どうしたんですか?」
呼ばれて2度目でアキラは現実で自分が呼ばれていることに気がつく。
「あ、ああ、悪い」
彼はそっと髪をかきあげながら答えた。
そうだった、そういえばさっき彼女がアキラに何かを言いかけたんだった。
何か聞きたかったのだろうか、彼女は自分に何を聞こうとしているのか、気にならない、と言えばそれは嘘になる。
聞くことでチサトがアキラのことをどう思っているのか、少しでもわかるのではないか、アキラはそう思った。
どうして彼女のことが気になるのか、彼女が自分のことをどう思っているのかをどうして知りたいと思うのか。
しかしチサトの方は今が聞くチャンス、そう思いながらも今のアキラのやりきれないような表情を見たら、聞く勇気がだんだんとしぼんでいった。
「なんでもない、です。
すみません」
そう答えたきり、彼女は黙り込んでしまった。