黄昏と嘘
やがて給仕がやって来てアキラと何か話をし、それからアキラは席を立ち上がった。
「料理は食べて帰りなさい。あまり、帰りは遅くならないように・・・」
アキラはそれだけ言い残し、席を立ち、足早に出口へと向かった。
「ちょ・・・、ちょっと待ってください。先生っ」
それまで黙っていたチサトも慌てて立ち上がり、カバンを抱え、彼の背中に向かって言った。
「あ、お客様?料理の方は・・・」
今度は給仕がチサトの背中越しに声をかける。
「えっと、あのっ、キャンセルでっ!」
チサトは呼び止められるが、それどころではない。
彼女は振り向くこともせずにアキラを見失わないように追いかける。
しかしチサトの声は届いているのか、いないのか、アキラは振り向くこともなく歩き続けた。
店を出て道路沿いの歩道を早足で歩くアキラをチサトは必死になって追いかける。
彼を追いかけたところでチサトがどう声をかけるのか、かけることができるのか、そんなことはわからない。
でも追いかけなければ、そう思った。
「待ってくださいって・・・」
ひとごみと、慣れないヒールのせいで、走っているつもりでもアキラとはどんどん距離が開いてしまい、追いつくこができない。
「痛い・・・」
足に激痛が走り、ヒールを脱いで確かめると、左足のかかとに靴ずれができていて水疱が破れ、血が滲んでいた。