黄昏と嘘
「放っておいてくれ。
キミみたいな子と一緒に食事をしても不味いと思っただけだから」
アキラはいつまでもその場から動こうとしないチサトに意地悪く言った。
とにかくチサトから離れたい、彼はその一心だった。
「でも先生さっきまで・・・」
そこまで言ってチサトは言葉が続かない。
以前、アキラはチサトのことが嫌いだとはっきりと言った、そのことをまた思い出してしまったのだ。
どうしてこんなときに、そんなことを思い出したのだろうか、泣きそうになってしまうがヒールを持つ手にぐっと力を入れてどうにか我慢する。
「やっぱり食事はひとりがいいと冷静に判断したまで、だ」
アキラは一度もチサトのほうを向こうとはしない。
きっと今の自分は嫌な表情をしている、そしてなぜか彼女にそんな表情を見られたくない、アキラはそう思った。
振り向いてはいけない、そして今は、何をどう言っても彼の言葉はチサトを傷つけてしまう。
そして、だから早く彼女から離れなければならない、と。
アキラはあの香りで「彼女」を思い出してしまったのだ。
たったひとりのひとでさえ、幸せにできず、苦しめ、泣かせてしまったこと、それをチサトには知られたくなかった。
チサトと一緒にいるようになってそのことを忘れることが多くなったせいか、アキラはいつの間にか知られたくない、と思うようになっていた。
気がつけば必要以上にそこから逃げようとしていた。