黄昏と嘘
カバンの底に突っ込んだから気がつかなかったんだ・・・。
慌てて内容を確かめるとそこにはアキラからの着信が残っていた。
そしてチサトは顔答えた。
「・・・すみません。
あの、その・・・帰らないとか、そんなんじゃなくて・・・」
そう言う彼女にアキラは車のハザードランプを照らし、道路脇に止めて傘を差して降りてきた。
「おまけにずぶ濡れで・・・。
夜は冷えるのに風邪でもひいたらどうするんだ?」
アキラは右手でチサトの方へ傘を差しかけながら左手で彼女の濡れた髪に手を当てようとした。
近付く彼の距離にチサトは真っ赤になって鼓動が高鳴る。
あのときと同じ、後ろから抱きとめられたとき、怪我した指に触れられたとき。
それと同じ温かさを感じた。
彼女の表情に気づいたアキラは
「ああ・・・、すまない・・・」
そう言って手を止めた。
言葉もなく傘の中にふたり。
雨の中、車の走る雑踏の音だけが聞える。
チサトはその音がまるでアキラが弾くピアノの旋律のように感じた。