黄昏と嘘
「・・・先・・・生・・・?」
チサトが声をかけるとアキラはハッとして表情を厳しくし、さっき彼女が言ったことを思いだしたように聞いた。
アキラの中には不安があったのだ。
「・・・だから・・・帰らないんじゃないっていうのなら、どうして真っ直ぐに帰ってこなかったんだ?」
「だから、・・・その、財布をなくしちゃって・・・歩いて帰ろうかと・・・」
「財布?」
「はあ・・・」
チサトはこんな子どものようなことをして怒られるのも当然か、と改めて自分で自分の失態に呆れながら返事する。
しかしアキはアキラで彼が感じていたような不安ではなく、チサトの意外な言葉にホッとしていた。
そして髪をかきあげながら、今にも笑い出しそうに言った。
「なんだ・・・、そう、そうだったのか。
僕はてっきり・・・」
「?・・・」
チサトはアキラの言葉の意味がよくわからなったけれど、さっき彼の元から走り去ったときの彼はもうどこにもなく今、目の前にいる彼が笑ってる、それだけで嬉しかった。
彼のことをよくわかってないくせに生意気なことを言ってアキラを傷つけたというのに笑ってくれていることが。
少ししてアキラは思い出したように彼女に傘を預け、車に戻って行った。