黄昏と嘘
チサトは渡された傘で顔を隠すようにして、さっきアキラが触れようとした自分の髪に手を当てる。
心配してくれたんだ、私のこと・・・。
嬉しい。
すごく。
そして戻ってきたアキラの方の手元を見るとチサトが彼に投げつけたヒールがあった。
「早く、履きなさい」
そう言いながら彼は足を拭くようにとタオルを渡し、ヒールをチサトの足元に置く。
その姿はまるでシンデレラを迎えに来た王子様のようだ、と彼女は思い、つい笑顔になる。
「どうしたんだ?」
不思議そうな顔をして聞くアキラにそんなこと、恥ずかしくて言えない、それにだいたい言ったとしたら、彼が怒りそうだからと聞えないフリしてチサトは笑い続けた。
「不思議な・・・」
アキラはポツリと言葉にし、途中で止める。
それはいつも思っていたこと。
彼にとって彼女は不思議な存在であること。
でもその思いは今回、彼女が家にいなかったということで不思議な存在だけでなく、彼女がいないことで不安にも感じるということを知った。
「え?なんですか?」
「いや・・・、なんでも・・・、ああ、ちょっと待ってなさい」
電話がかかってきたのか、そう言いながらアキラは背広の内ポケットからスマホを取り出した。
言葉使いから事務的な話をしているようだったが、彼女にははっきりと内容まではわからなかった。