黄昏と嘘
電話を切ってからチサトは急いで服を着替え、出かける用意をする。
何を着て行くか、どんなカバンで行くか。
あれこれ悩んでいる時間はあっという間に過ぎてしまう。
そんなに持ってはいないくせに服を探すのに時間がかかり、結局、カバンはいつも学校へ行くときに持っていくものを机の下から引っ張りだした。
そして顔を洗おうと洗面所に行こうと部屋を出たとき、納戸の扉が開いていることに気づいた。
チサトはどきっとして、その中にアキラを探す。
あ、いた・・・。
先生も休みだったのかな・・・。
アキラはチサトに気づくことなく、本を探しているようで何冊か取り出しては内容を確認していた。
「・・・あの、先生、おはようございます。
ちょっと・・・でかけてきます・・・」
チサトは声をかけたらマズいだろうか、そう思いながらそっとアキラの後姿に向かって言う。
しかし考えたら彼は休みの日でもいつも何か納戸で調べ物していたりパソコンで資料のようなものを作っていたり、のんびりと過ごしているところを見たことがない。
ピアノを弾いているとき以外は。
「ああ・・・」
アキラは背中を向けたまま答える。
「あの・・・帰りは・・・そんなに遅くならないと思いますから・・・」
「・・・」
アキラは何も答えない。
少しでも自分のほうを向いてくれてもいいのに、そう思ったけれど、返事をしてくれるだけでもじゅうぶんか、とチサトは思い直す。