黄昏と嘘

「あ、そうだ。先生?
新しい煙草、リビングテーブルの上に置いてますから・・・」

その言葉にアキラはチサトの方を振り向く。
振り向ことは思っていなかったチサトはびっくりする。


「えっと・・・それじゃ、いってきます・・・」


なんだか恥ずかしくなって、さっきよりも小さな声でチサトは言う。


「・・・ああ」

それだけ答え、彼はまた背を向ける。
チサトもまた彼に背を向け、静かにその場を離れると少しして背中越しにアキラの声が聞こえた。

「・・・ありがとう、・・・気をつけて・・・」


・・・『ありがとう、気をつけて』、思ってもいなかったそのアキラの言葉にチサトは嬉しくなり、急いで納戸まで戻り、同じ言葉を繰り返す。
今度は大きな声で。

「先生!いってきます!」

「早く、行きなさいっ」

そう答えるアキラはチサトのほうを向くことはなかったが、チサトはもう天にものぼるくらいに嬉しかった。








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