黄昏と嘘

先輩ということは学生の頃、一緒に過ごしたことがある、ということだろうか。
でも考えてみればモモカとアキラは同年代に近いように思える。
一緒に住んでいた頃はチサトは3年でアキラ授業を取ることになったのだが、彼の話を彼女には一切したことがなかった。

まさか。

膝の上にあるチサトの手が微かに震えた。

「あ、あの・・・、小野先生です。
小野・・・アキラ先生。
えっと、大学の時事英語研究の授業をもっていて・・・准教授です。
とても厳しい先生で・・・」

チサトの知らないアキラを彼女は知ってるかもしれない、もしかしたら、とおそるおそる言った。

「・・・そうなの。なんかすごい偶然ね。
そっか、チサトちゃんの大学で准教授やってるんだ。
知ってるわ、彼なら。
でも・・・相変わらずそうなのね。
昔は厳しいとかそういうのなかったのに・・・」


昔は・・・?

チサトは厳しいアキラしか知らなかったのでモモカの言葉にただ驚くだけだった。

「そ・・・そうなんですか?」

「ええ。
小野先輩は・・・同じ大学のサークルの先輩でね、その頃はとても気さくでやさしいひとだったわよ?」

「え?小野先生が?」

気さくでいい人なんて今からだと想像もできない彼の姿。
だからきっとこの話は聞いてはいけない話だと心の隅の方でわかっていた。
もう二度とアキラのことを詮索してはいけない、詮索しないと決めたのだから。

< 242 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop