黄昏と嘘

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太陽も沈みかけ、西の空に夕焼けが街をやさしく茜色に染める。

本当はあんな話を聞いてここに帰るの、嫌だったんだけどな。

そう思いながらモモカと別れ、帰ってきたチサトは家のドアを開ける。
本当は帰ってきたくなかった。
あのままモモカとずっと一緒にいたってよかった。
でもそんなこともできるわけもない。帰る場所はここしかないのだから。


先生・・・いるかな・・・。


そっと玄関先からアキラの気配を探すチサトだが、探したところで彼の顔などまともにみれるわけもない。
久しぶりのモモカとの再会でこころはずませ、楽しく帰宅する、はずだったのに。

チサトがゆっくりと靴を脱ぎ、そのまま黙って自分の部屋に行こうとしたとき、聞えてきたピアノの音。

それはいつもアキラが弾いているショパンの「ノクターン」だった。
チサトは急に胸の奥が締め付けられ、溢れてきそうになる涙に、上を向いてどうにか我慢し、大きく息を吐く。


彼女はうつむいて、その場で目をぎゅっと閉じて両手を耳に当てて音を塞ぐ。

しばらくそのままで動かずに息を殺し、立ちすくむ。


・・・そしてゆっくりと目を開けて、両手を下ろす。
もう音は止んでおり、どうやら曲は終わったようだと理解する。


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